私がオーストラリアへ行ったのは高校2年の夏。日々の勉強に追われ、高校生活に嫌気が差していた時に、母が息抜きにと勧めてくれたのがオーストラリアの短期留学だった。
ワクワク、ドキドキしながら降り立ったシドニー。第一声は「寒い!!」日本は夏だったのにオーストラリアは冬。(それは聞いていたけど、オーストラリアは冬でも暖かいと勝手に思っていた)。上着を持ってきておけばよかった…と後悔するも時すでに遅し。10度を下回る日も多く、滞在中ずっと夏のセーラー服で震えて過ごした寒さは忘れられない。
待ちに待ったホストファミリーとのご対面は、お母さんが「あなたがSatsuko?さあ行きましょう!」とあっけなく終わったので、飛行機の中でずっと練習していた自己紹介は出来ずに終わり、しかも名前は訂正しても最後までSatsukoのままだったという情けない話だ。ホストファミリーはお母さんと娘と息子プラス犬の家族で、娘は大学生で一緒には住んでおらず、息子は一緒に住んでいるが同年代でイケメン。年頃女子には眩しすぎて、うまく関係を築けないままに終わってしまった。ちょっと思い描いていたホストファミリー像とは違っていたけれど、それでも頼もしい肝っ玉母ちゃんのようなそのホストマザーとは今でも連絡を取り合う仲だ。
滞在中に一番困ったことは洗濯。私が英語が話せないことが一番問題だったのだが、頑張って辞書を片手に「Where can I wash my clothes?」と必死に聞いたら、「You can use here」と笑顔で連れて来られたのが洗濯機の横にあるシンク。洗濯機を横目に見ながら冷たい水でたくさんの下着を手洗いする事になるとは思いもしなかった。そしてシドニーの冬は雨も多い。手絞りの洗濯物が外で乾く筈もなく、数日後にホストマザーに助けを求めた私。「乾燥機に入れたらいいのにー」と言って使わせてくれた時には、ウジウジ悩まずに早く聞けば良かった。と、とても嬉しかったのを覚えている。自分で言わないと、人は察してくれないのだと学んだのはこれが最初かもしれない。
滞在させてもらっていてこんなことを言うのはなんだが、正直なところホストファミリーには当たり外れがあるのが現実。友達のところはかわいそうなくらい対応が酷かった。彼のホストファミリーは猫をたくさん飼っていて、猫が突然現れたよそ者を警戒するのはもちろんだが、聞いたところによると、彼が目を離した隙に持ち物のいたる所にマーキングをされてしまったらしい。洗えるものはまだいいが、学生服はクリーニングが必要にもかかわらず、ホストマザーは全く協力してくれなかったのだ。ホームステイはただの部屋貸しという事だろう。仕方なく上着なしで過ごしたその友達を見る度に心が痛んだが、程なくして別の素敵なファミリーのところへ移れたようで、本当によかったと思う。
オーストラリア生活も中期に差しかかって来た頃、私たちはファームステイをさせてもらう事になった。これまでずっと都市部にいたので、乗馬を楽しんだり、コアラを抱っこさせてもらったり、牧場を走り回ったりして経験したことのない大自然を満喫していた。そこまではよかったのだが、その次の日の朝問題が起こったのだ。顔を洗おうとしたら、水が出ない。オーストラリアでは水が貴重だということを知らされていなかった私たちは、それぞれが普通にシャワーを浴びて就寝したのだが、これのせいで水が空っぽになってしまったとのこと。そういうことなら先に言っておいて欲しいものだが、もう今さら仕方がない。急遽追加でお願いした給水トラックが来るまで料理も出来ないので、お腹が空いているであろうファーマーのおじさん達と一緒に朝ごはんを待っていた沈黙の時間は居心地が悪かった。
滞在中に通っていた語学学校がどうだったかというと、レベルなどは正直なところよくわからない。先生は優しくて、授業は楽しくてよかったと思う。私が一番衝撃を受けたのは、クラスの途中で勝手にトイレに行ってもいいと言う事だ。日本ではたとえお腹が痛くても必死で授業が終わるまで耐えていたと言うのに、手も挙げずにトイレへ行っても良いと言うのだ。なんと自由なんだ!と感動した。
いよいよホストファミリーとのお別れの時になり、私は気の利いたことは言えなかったが、笑顔でお別れをした。その時せんべつにいただいた「英会話とっさの一言」の本は今でも私の宝物だ。Satsuko、またオーストラリアに来てね!と書いてあった。英語がほとんど話せない異国の高校生を暖かく迎え入れてくれたファミリーには今でも本当に感謝している。
私の初海外体験。シドニー滞在は私にいい刺激を与えてくれた。それまでお世辞にも得意とは言えなかった英語だったが、それから興味を持って取り組めた。現地で意思疎通が出来なくて、「悔しい、もっと話せるようになりたい!」と思えたことがその後の英語の上達につながったと思う。悩んでいた高校生活もこの留学を境に気分一新。目標を持って学生生活を楽しめたと思う。それもこれもこの留学の機会を与えてくれた両親のおかげだと感謝してもしきれない。
そうして、この経験がきっかけで次はアメリカ、オレゴン滞在編へ続く。